多くの方々のご来場をこころよりお待ちしております。
日時:2019年9月28日(土)13時30分〜
場所:早稲田大学戸山キャンパス 第7会議室(39号館6階)
■発表プログラム
14:30-15:30 鳥山 明日香(ベルリン自由大学)
「不自然」で「モラルに反する」――R.W.ファスビンダー『外人野郎』と『不安、魂喰う』における〈のけ者〉
戦後ドイツの映画監督R.W.ファスビンダーは、37年という短い生涯の中で、当時の西ドイツにおける社会問題や、人間関係の中で生じる摩擦をテーマに、様々な映画的技法を取り込みながら40以上の作品を遺した。
彼の作品では、あらゆる意味で社会から〈のけ者〉として扱われている人物に焦点が当てられている。中でも、ファスビンダーは外国人労働者をテーマに、最初の長編映画『外人野郎』(1969年)と、中期を代表する『不安、魂喰う』(1973年)の二作品を製作している。この二作品は物語の展開や台詞に多くの共通点がある一方で、映画のスタイルは大きく異なっており、前者は様々な情報を排除した簡素な作りであるのに対して、後者はメロドラマ手法を取り入れ、映像面においても物語の面においても、綿密な演出が施されている。
本発表では、二作品の異なった様式が、外国人労働者の表象にどのような効果を与えているのかを観察しながら、ファスビンダーにおける〈のけ者〉像について考えてみたい。
15:30-16:30 西口 拓子(早稲田大学理工学術院教授)
グリム童話研究、挿絵を手掛かりに
2012年に『グリム童話集』の初版刊行200周年が祝われ、記念する国際学会も開催された。そこで日本の挿絵に関する発表をするため、調査を行った。
そもそも、グリム童話研究においては挿絵はほとんど注目されることがなく、広範な資料に基づいてFreybergerがドイツの挿絵に関する研究をまとめたのが2009年だった。
日本の挿絵は、和風と洋風のものに大別できる。和風の挿絵と呼んでいるのは、舞台が日本に置き換えられ、登場人物が和服を纏うなどしているものである。その場合、挿絵のみならず翻訳テクストのほうも大胆に翻案されている場合が多い。
一方の洋風の挿絵は、明治期のものでも見事に西洋風に描かれている。Freybergerの研究などを参考にして調査を進めたところ、ドイツやイギリスの挿絵のなかに日本の絵師が手本としたとみられるものが見つかった。
たとえば「狼と七匹の子やぎ」の本邦初の絵本である『八ツ山羊』(1887年) は、日本の絵師によって独自に描かれたと考えられてきたが、ドイツのロイテマンによる挿絵に酷似している。『西洋妖怪奇談』(1891年) には、イギリスのウェーナートの挿絵とよく似たものが多数掲載されている。この英語版を『西洋妖怪奇談』の翻訳者である澁江保が底本として用いたことが、テクストの比較を行うことにより明らかとなった。
グリム童話の初期の邦訳テクストは、手が加えられていることが多いため、底本の特定は困難だが、挿絵を手掛かりとする手法が有効な場合がある。
16:30-16:45 休憩
16:45-17:45 相澤 正己(早稲田大学名誉教授)
シェーンベルクと月の光―《浄夜》《グレの歌》《ピエロ》―
シェーンベルク(1874-1951)と月の光、という言葉の組み合わせから直ちに想い起こされるのは、彼の作品《ピエロ・リュネール》ではないだろうか。フランス語原詩のドイツ語訳に作曲されたこの作品は、タイトルはフランス語のままとされた。素直な日本語訳としては《月のピエロ》になるこのタイトルは、《月に憑かれたピエロ》と訳されて、それが定着した。日本の文化には「月に憑かれた」側面があり、それがこの日本語訳の定着とも関係しているだろう。シェーンベルク自身はヨーロッパやアメリカに関心を集中させ、東方への関心はパレスチナやイスラエルまでで、日本を含む東アジアに真剣な関心を向けたとは思えない。したがってアジア的なものの影響は当然語れないのだが、彼には「月に憑かれた作曲家」という面があったように思われる。《ピエロ》に限らず、初期と中期のいくつかの作品に関して、「月に憑かれた」という傾向が指摘できるのである。こういう観点から、彼の初期を代表する弦楽六重奏曲《浄夜》(1899)、初期から中期にかけて完成された壮大な作品《グレの歌》(1900-1911)、そして中期を代表する《ピエロ・リュネール》(1912)について考える。曲の一部をともに聴いていただきながら話を進めたい。その際に、日本や旧東独の音楽家たちのすぐれた演奏をとりあげる。